87%観る将です。

将棋大好き、13%は指し将です。

とても良い記事なので再掲します。

東洋経済の記事です。

 

将棋界が直面する未曾有の危機とは何か?

将棋ソフトに右往左往、三浦九段は完全シロ

昨秋から年末にかけて世間を騒がせたプロ棋士の不正疑惑。そこでの日本将棋連盟の対応はあまりにお粗末だった。第三者委員会が出した結論は「完全なシロ」。疑惑をかけられた三浦弘行九段と家族のスマートフォンやパソコンからは、不正の証拠は何一つ出てこなかった。

よく調べもせずにプロ棋士を出場停止処分にした将棋連盟の面目は丸つぶれだ。連盟は幹部の減俸(1〜3割を3カ月減給)で事態収拾を図るが、これで収まりそうもない。

出場停止で数千万円の対局料(挑戦が決まっていた竜王戦でタイトルを奪取すれば4320万円、奪取しなくても1590万円)をフイにした三浦九段への補償問題もくすぶる。

トップ棋士の三浦九段に不正疑惑浮上

出場停止処分は根本から誤りだった。日本将棋連盟の谷川浩司会長は、連盟の処分は誤りだったと認めるとともに、三浦弘行九段への謝罪の言葉を昨年12月27日の記者会見で口にした。

三浦九段は将棋の7大タイトルの一つ、棋聖を獲得したことのあるトップ棋士の1人である。この棋聖獲得は、羽生善治3冠がかつて7冠だった頃、その1冠を崩した歴史的なタイトル奪取だった。その後も棋王戦などで挑戦権を獲得している。新人王戦、NHK杯で優勝。最近では2015年度の将棋日本シリーズで優勝している。

2016年、三浦九段はA級順位戦に返り咲いたばかりだった。A級順位戦は10人の総当たり戦で名人戦(毎日新聞と朝日新聞の共同主催)への挑戦権を争奪する最高位の順位戦である。三浦九段はA級に14期在籍後、2015年にB級1組に降格したものの、1年でA級に返り咲いていた。

竜王戦(読売新聞主催)はトーナメント主体で、実力さえあれば若手でも順位戦の階段を上ることなく一気に頂点に上り詰めることができる。竜王戦でも久々に挑戦権を得るなど、三浦九段の復活は華々しいものがあった。

だが、その裏で、「三浦九段は対局中の離席が目立って多い」とか「三浦九段の指し手が将棋ソフトに酷似している。将棋ソフトとの指し手の一致率は9割以上」とプロ棋士の間で噂になっていた。「三浦九段の復活は対局中に将棋ソフトにアクセスしているからではないか」と不正が疑われるようになった。

疑惑の決め手となったのが、竜王戦挑戦のかかった久保利明九段との7月下旬の対局である。「約30分の離席があった」との久保九段の言葉を受けて、複数の連盟幹部が三浦九段を疑い始める。

最高検察庁の元トップである但木敬一弁護士を委員長とする第三者委員会は、2カ月かけて三浦九段の疑惑を検証。三浦九段や家族のスマートフォンやパソコンの解析を外部の専門家に委託するとともに、竜王戦の挑戦者決定戦の4局について、指し手の一致率が高いと言えるかどうかを実際に確かめるとともに、対局者やトップ棋士への聞き取り調査をした。

「30分の離席」はそもそもない

12月26日に公表した調査結果は「疑惑の発端となった『30分の離席』はそもそも存在しない」という驚愕のものだった。久保九段との対局では計2時間40分の離席があったが、重要な局面での離席は6分、3分、3分といずれも短かった。翌日の会見で谷川会長は「初動でしっかり確認しておけば」と悔しがるとともに、連盟の決定的な落ち度を認め、肩を落としながら謝罪した。島朗(しま・あきら)常務理事も「30分離席の確認ミスが痛恨」と眉をひそめた。

「一致率」について、第三者委員会は「同一ソフト・同一局面・同一棋譜でも指し手の一致率には約20%の違いがある」「三浦九段よりも一致率が高い棋士も存在するが何ら問題視されていない」「検証の対象とした4局で、対局相手やトップ棋士に聞き取り調査をしたが、三浦九段の指し手に不自然さはない」とし、一致率の高さが不正の証拠とはならないと断定した。

連盟の谷川会長は「同一局面・同一棋譜でも一致率に20%もの違いが生じるとは思わなかった」と将棋ソフトへの認識の甘さを認めている。

第三者委員会のシロ判定を受けて、連盟は三浦九段への金銭的な補償について「今後話し合いを進めていく」とするとともに、救済策を示した。

三浦九段は疑惑発覚後、2016年内の出場停止処分を受けている。出場停止で2つの不戦敗が付いているA級順位戦について、連盟は今後も不戦とするが、三浦九段の今期降級はないとする。通常降級は2人だが今期は1人のみ。通常10人のA級は来期11人とし、昇級したばかりで今期10位だった三浦九段は来期11位でスタートする。来期の竜王戦については、トーナメント戦で挑戦権を最も得やすい予選1組とするという。

ただ、これらの救済策で三浦九段が納得するとは到底思えない。

A級順位戦は、同じ勝敗であれば順位の低い方が降級の対象となる。来期11位からのスタートでは三浦九段は降級する可能性が最も高いことになる。

出場停止になる前の三浦九段はA級順位戦で1勝3敗だった。敗けが込んでいたとはいえ、渡辺明竜王に勝って波に乗り始めていたところである。それで来期が最下位スタートではあまりに酷ではないか。少なくとも、すでに不戦敗となった2局を除く残り3局は、三浦九段が望むのであれば出場させ、その勝敗を来期の順位に反映するのがフェアなやり方だろう。

竜王戦についても疑問が残る。三浦九段は挑戦権を得ていたのだから、そのことを最大限尊重すべきだ。来期は予選1組からではなく、挑戦者を三浦九段とするか、少なくともトーナメントを勝ち上がった棋士と三浦九段とで優勝決定戦をするくらいでないと、三浦九段の無念は晴らせないだろう。

「シロ」だが出場停止は妥当?

第三者委員会は三浦九段をシロ判定した一方、「出場停止は妥当だ」ともした。「竜王戦の開催が迫っている中、当時の連盟に出場停止以外の選択肢はなかった」とまで断言している。

果たしてそうだろうか。竜王戦は先に4勝した方が竜王を獲得する。最大7局まで争われる竜王戦の開催中に、「『疑惑の挑戦者(仮題)』のようなタイトルの記事」(青野照市専務理事)、すなわち三浦九段の不正を疑う記事が週刊誌に掲載される予定であることが連盟幹部の耳に入っていた。「それでは竜王戦を続けられなくなる」と判断。三浦九段を幹部の集まりに呼んでその旨を告げた」という。

青野専務理事は、「世間に誤解があるようなので」と前置きしたうえで、「『三浦九段に連盟が休場を強要した』という事実はない。三浦九段が休場を申し出たので、『であれば届け出を出してくれ』と言ったまでだ」と強調したが、そう言わざるを得ない「場の雰囲気」を作ったのであれば、言わせたのも同然だ。

もし棋士を全面的に信用するならば、どこにどんな記事がいつ出ようが、連盟は全力で棋士を守るべきだろう。つまり、三浦九段を出場停止にする以外の選択肢もあったはずである。

連盟はむしろ「性善説」に徹するべき

今回の騒動を奇貨とし、連盟は「今まで性善説でやってきたのがよくなかった」として金属探知機の導入に踏み切った。

だが、三浦九段がシロ判定だったことから考えると、「連盟はむしろ性善説を徹底すべきだった。連盟の性善説はいつの間にか不公平なものとなっていた」とも言えるのではないか。

三浦九段の「不正はしていない」という言葉を信じず、久保九段の「30分離席」という曖昧な記憶を信じたのはなぜだったのだろうか。どんな棋士も平等に信用する信念が連盟幹部に徹底していれば、今回のような冤罪まがいの騒動は起きなかったはずである。

第三者委員会は「将棋ソフトが力をつけてきて将棋界は未曾有の危機に直面している。疑心暗鬼の心が棋士に生まれている」とした。しかし本当は将棋ソフトが力をつけてきたからではなく、連盟が棋士の研究や勝負への真剣さを信頼できなくなってきていることこそが、将棋界にとっての未曾有の危機なのかもしれない。